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【物語風】トイレットペーパーよりも少し硬い夏目漱石

時計を見るともう例の時間だった。僕はタバコに火をつけてメールをした。山崎にだ。

「ごめんちょっとヤボ用が片付かなくてちょっと遅れそう。皆で先に飲んでて!社長にすみませんっていといて」

嘘をついた時何かをごまかすのが体に出るって良く言う。僕はタバコをめいいっぱい深く吸い込んで深呼吸の様に煙を吐いた。たぶん嘘をついたことを反射的に紛らわすためだろう。

煙のむこう側に目をやると、カップルがなにやら揉めているようだ。

すっかり夜なのにはっきりと顔まで見える。あれだれだけ。。記憶をさかのぼろうとした時に「ブーッ」と部屋のブザーが鳴る。と同時に罵声「おいこら木島さんよいるんだろ」

まさにドラマにありがちな借金とりだ。

僕は封筒に包んだ100万円と950円をスーツの内ポケットから出し玄関のドアを開ける。

「おう。今日はやけに素直だな」
「近所迷惑だな。ほんと」少しにらみ返す僕。
「あ?」とわざとらしいドスの効いた声で脅しをかけてくる。
「あー。もうこなくていいよ。これ」と僕は全額の元本と利子を含む封筒を渡す。

少し驚いた表情だったが、完済のサインをしあっさりとそいつは帰っていた。

「あー燃えてる。。」ベランダでさっきのタバコが燃えてしまっているではないか。 急いで、水をかけ消火する。まったくあの借金取りはホント疫病神だ。 さっきまでいたカップルはどこかへ行ってしまったようだ。僕はまたマイルドセブンに日をつけて、ひと段落した勝利?ではないが完済の一服をした。さっきの男は誰だったけか?まだ思い出せなかった。

しかし、たかが300万僕は金に縛られてここ5年を過ごしてきた。21歳の夏何もかもが上手くいかなかった。僕がハマったのはパチンコと競馬。あっという間に借金は300万。大学も中退し、そのままバイトで働いていたコンビの社員になたは良かったが、店長に嫌われて首。まだ若いからもっと給料のいい仕事先なんて簡単に見つかるさ。と転々と仕事を探したがマックス25万。毎月の返済と生活費でほとんどが消え気がつけば24歳だった。そこから人生の大逆転劇が始まったのだ。

24歳の夏僕は友人の紹介でネット系のWEB制作系の取引を紹介された。僕なんかがネット?パソコンも碌に触ったことがないのにいいのか?と質問を返したら「いいんだ。むしろそれがいい」と訳の分からないことを言われた。彼は、学生時代から頻繁に会っていた数少ない僕の友人だった。気さくで誰とでも仲良く接する事ができる彼は仕事でもうまく言ってるようで、取引先の社長から出されたお題【今借金していて、性格が良くて(素直で)貪欲な子紹介して】という話で人材を探していたらしい。飲みの席でたまたま借金の話をしてしったのが功を奏して、ならおまえ、この話にのってみないか。という流れだ。性格が良いかはわからないが、借金していて金を稼げるのであれば貪欲になれる自信はあった。

「条件はたった一つだ6カ月指定されたその会社さんのサイトで記事を書き続けること。これだけだ。報酬報酬5万を3ヵ月出す。その後成果が上がってきたら、そのサイトでの利益の10パーセントがお前の取り分だ。しかも別に会社に出社しなくても良い。悪くないだろ。」と山崎は言った。

なんだかよくわからなかったが、未だに借金200万ある僕にとっては悪くない話の様に聞こえた。在宅でもできるならなおさらだ。そろそろ稼いで一気に借金を返したいから。

「OK。やろうか。山崎のこと信用してみるよ」僕はその場で返事を出したんだ。 騙されたとしても金が減るわけじゃなさそうだし。

その3日後=話はとんとん拍子に進んだ

社長の村山さんは腰が低くて全然社長という感じがしなかった。でも体格がよくまるでキックボクサーの様だった。オシャレではないが、日焼けした肌で、単純に破れてしまったユニクロかどこかのジーンズに白のTシャツを着こなしていた。

第一印象は怒らしたら怖そうだな。。と思ったけど、話したら本当に気さくだった。 どうやら、経営自体あまり上手く言っておらず、企画はしっかりしたものがあり、固定費ではなく成果で取引をしたい。2年契約で売り上げはサイトなどの制作と企画、広告と集客技術があるから僕に10パーセントのフィーが支払われるという聞いたままの話だった。

僕がまかされたのは2サイト。アダルトサイトと借金をしたら苦しむというコンセプトのサイトだった。言われるがままに記事を書いた。僕は学生の頃実は小説家志望だった。本はわりと読むのが好きで、社長から渡されたWEBライティングの技術と人にささるコピーライティング系の本、それからSEOという検索にヒットする概要の本をプレゼントされた。当時僕の本業は、、本業といってもバイトだが、通販番組のオペレーターをしていた。

バイトの休憩時間は本を読むことに熱中し、家へ帰っても渡された本をむさぼり読んだ。最新のWINDOWS PCを一台支給され、いえにPCがドンと構えているのがなんだか嬉しかったのを覚えている。ちなみにネット回線は既に引いていたが、月6000円もネット回線費用として手当てをもらえた。見た目とのギャップがある社長になぜかひかれたのもあったが、この条件は悪くなかった。

しっかりと、仕事に着手し始めたのは社長にあってから10日後くらい。要点を抑えた指示書に従い、文章を書き始めた。やりとりはその会社の専用チャットで作業の報告を行った。ノルマはページの数だったがかなり簡単に仕上げることができた。本当にこれで金もらっていいのか。。と疑問にも思いながら1カ月仕事をつづけたある日社長からTELが入った。

「木島くんすごいよ。売上200万いった!」

電話に出るとすぐに社長は興奮してそういったのだ。

「まじっすか!!」

「うん。売上を見れる管理画面チャットで今送ったからこれ毎日ここで見れるようにしとくよ。広告費、原価やら差し引いて、木島くんの取り分は10万って感じだね。取りあえず祝杯あげよう。明日の夜空いてるかな?」

「はい。もちろん!空いてますし、空いてなくても空けますよ!!!」

「そうか。じゃ明日渋谷のうちの事務所に来てくれるかな。20時くらいに」

「はい。わかりました。」

電話を切り僕は思わずガッツポーズをした。それから数分後チャットで売り上げがわかる専用のページにログインした。10万(源泉含まず)+固定費5万+回線8千円 源泉徴収が1万円も。。とも一瞬思ったが、これは契約前にちゃんと説明を受けていたから納得しやはりガッツポーズをした。

作戦会議:渋谷の某居酒屋にて信頼が深まる

売上の内訳を乾杯をした後にすぐ話し始めた。アダルト系が好調の様だ。 僕は別にアダルトとかあまり抵抗がなかったのだけど、社長は問題ない?大丈夫か?とかなり気を使ってくれた。「大丈夫っすよwホントに借金まみれの僕に光を指してくれたアダルトグッツ様様です。こういう仕事している人に元々偏見とかないですし、別に悪いことしてるわけじゃないってわかってますから。」

「その言葉を聞いて安心したよ。じゃあ来月からは、こっち一本で稼働させようか。 売り筋商品のピックアップとターゲット表とかまたチャットで送るよ」

それからは仕事の話はあまりしないで、世間話や僕が今なぜこれだけの借金をしているのかとか、今後どうなりたのかなどを話した。僕は社長の将来どうなりたいの?という質問に答えることができなかった。今は金返してこの生活を抜け出したいですと答えた。社長はあっという間に返せるさ。と言ってくれた。本当にそう思った。まさか1カ月でこんなに多くの報酬を受け取れるなんて思わなかったから。

2ヶ月目はオペレータのバイトを半分にし、執筆に集中した。お金はスグに振り込んでもらえたから、雑誌を買い込んだ。女性誌から情報を得ようとしたのだ。同じバイト先の彼女にアダルトグッツを使うならという質問もしてみたが、本音での回答がくる気がしなかったのと、僕が売ろうとしているのは、「女性がこっそり買う」というのがコンセプトだったから、女性誌にヒントがあるような気がして3万円分もつかってしまった。投資投資。

そんな努力を続け、2ヶ月目は売上250万円を記録、3カ月目は300万の大台も突破した。広告はほとんど使っていないらしく、利益率は極めて高い。原価やらその他人件費を差し引いて僕の取り分は売上から5%くらいのようだ。5パーセントかぁ。これ、全部自分でやってしまえば…。いやいや仕入れとか大変だろうからそんなことは。。とにかく、今の状況は6カ月前まで考えられなかった。今は何があっても社長に貢献しようと思った。 このペースで月1000万の売上を出せば50万の取り分だ。借金もスグ返せる。

一旦、そう決めた僕は強かった。その2カ月後売上1000万を達成し、想定していたよりも多い70万ちょっとの報酬を手に入れた。続けていたバイトも辞めた。借金もできるだけ一気に返していった。

ここ一年の思い出が、蘇ってきた。4年かけて100万円しか返せなかった僕はたったの1年で借金200万円を完済したのだ。

僕はまた煙草に火をつけた。なんか拍子抜けしてしまった。社長が出合って1カ月後の祝杯の時「将来何やりたいとかあるの?」といった言葉を思い出した。僕はこの一年、文章を書き続けた。商品がどうこうは関係なく、文章一本でモノが売れるということに感動したし、借金があってもたまにいっていたパチンコも一切興味がなくなった。仕事自体がとても楽しくなってきたのだ。適当にやっていたオペレーターも辞め今あれだけ懇願していた借金をすべて返済した。なのに、なぜかあっさりしていて、今までと何かが変わった気がしなかった。

ポッケの電話がブーとなる。誰かからメールだ。山崎からだ。

「了解。なるはやでな。主役お前なんだから」

「すまん。20分くらい送れます」

とすぐさま返信し、僕は渋谷へ向かった。

急にお腹が痛くなり、地元の駅のトイレに駆け込んだ。 あーなんなんだ。こんな日に下痢か。トイレットペーパーが残り少ない。 最悪だ。残り少ないトイレットペーパーで汚れをふき取り、まだ吹き足りない。 あーもう。外には誰もいなそうだが、気が良く分からなくなった僕は財布から夏目漱石を1枚取り出した。くそ。夏目漱石はトイレットペーパーよりも少し硬かった。

なんで、そんな行動をしたかはよく分からない。 でも僕は今までお金に縛られ過ぎていたのかもしれない。馬鹿なことをしたと思うし、こういう行動は今後したくないけど、罪悪感はなかった。「うわ、馬鹿俺…w」といった程度だ。借金をしていたころは、おそらく金をすごく大事な存在、崇高な存在としてとらえていた気がする。金さえあれば幸せになれると。確かに今後はお金に余裕があって、少しゆったりとした生活が手に入るだろう。それは素直に嬉しい。でももっと何かを達成した気持ちになるかなと思ったのだがそうならなかったのだ。

でも、その馬鹿な夏目漱石事件でなんとなく僕は思ったのだ。 たぶん今の仕事がかなりすきなんだと。社長と出会えてまったく新しい世界が見れたこと。返済というよりも、必死に取り組んだ事ができたことを。直感的に悟った。

僕はそのまま急いで渋谷に向かった。 山崎と社長と他のメンバーが待つ馴染みの居酒屋へ。